大阪府の一角にある堺市は、古くからさまざまな産業の拠点となってきました。
政令指定都市の中で一人当たりの製造品目額が最も高い都市であり、街中には戦国時代の鉄砲から現代の刃物、自転車、線香まで、多種多様な製品を生産する工場が立ち並んでいます。
その中でも、この街の象徴ともいえる産業が綿花産業です。
布おむつや寝巻き、ガーゼなどの日用品から始まり、現在では「手ぬぐい」の一大産地として有名な堺市。
この伝統は、70 年以上にわたって職人の技術を守り続けてきた竹野染工によって守られています。

約100年前に誕生したロール染色法は、もともと大量生産のために導入されました。
しかし、需要が減少し、多くの競合他社が廃業に追い込まれるなか、竹野染工は転機を迎えました。
これまで不可能とされていた「両面ロール染色」に成功し、より付加価値の高い製品へと転換しました。

手ぬぐいの主な染色方法は、浸染、プリント、巻き染めです。
現在、反物染めを扱える職人は全国で10人未満、専用機械も6台しか存在しません。
このうち2台は、竹野染色工場が所有しており、70年以上使用されている古い機械です。
壊れてしまうと技術の継承が難しくなるため、存在が貴重です。

反物染めとは、模様を彫った型に染料を流し込み、漂白した布を押し当てて染める技法です。
重さ40kgもの金属板にデザインを彫り込む銅版画に似た「凹版印刷」と呼ばれる技法が使われている。
ロール状の型にインクを吸い取り、布を染めることからこの名がつきました。
染色する布地を2つのロールの間に挟み、一方のロールで布地を染色し、もう一方のロールで染料を押さえ込みます。
機械を回すだけでなく、職人による微妙な圧力の調整も必要です。圧力が強すぎると模様が潰れ、弱すぎると模様がぼやけてしまうからです。
この工程で特に重要なのは、染色の過程で不要な染料を削ぎ落とす「刃」です。
ステンレスの塊から作られた刃は、職人の手によってヤスリと砥石を使って研がれています。
刃の鋭さはちょうどよくなければなりません。鋭すぎたり薄すぎたりすると、強度が低下し、きれいな模様が描けなくなります。
刃が完璧でなければ、模様がぼやけてしまい、染め直しが必要になります。この微妙な切れ味を見極めることができて初めて、一人前の職人と呼べるのです。

竹野染工所では染料もすべて自社で作っており、50色以上の基本色を混ぜてどんな色も作り出します。0.1gの配合の違いで色合いが変わるなど、色彩表現の可能性は無限大です。
また、染め具合を調整する粘度も重要で、染料が水っぽすぎたり濃すぎたりすると染めにくくなります。この微妙な調整も職人の手仕事。さらに、色止めとなる糊も自社製品を使用し、色落ちしにくいものを作っています。

手ぬぐいの染め方の中で、ロール染めはあまり知られていないかもしれませんが、竹野染工所では、表と裏で色を変える両面染めという、ここでしかできない技術を開発しました。

厚手の生地であれば特に難しい技法ではありませんが、手ぬぐいのような薄手の生地に両面染めを実現しているのは、世界でも竹野染工所だけの技術です。

竹野染工所の職人の技により、手ぬぐいは世界に一つだけの逸品にまで昇華されています。
